報道の熱が冷めたところ、改めて彼の責任について考えてみる必要はないでしょうか。
私たちATTAC Japan(首都圏)は、下記の声明を発表することにしました。
日本経済の「通貨の番人」ともいわれる日銀総裁の正当性が疑われる事件が起こりました。
証券取引法違反の容疑で逮捕された村上世彰氏が率いる村上ファンドに日本銀行の福井俊彦総裁が、ファンド設立当初に1000万円を出資、6年間で1.5倍もの運用益を上げ、村上氏への捜査のうわさが広がっていた2月に投資契約を解除していたという事件です。
通貨は「経済活動の血液」といわれるように、私たちの生活にとって重要なシステムです。今回の事件は、この通貨をコントロールする巨大な権限を握る日本銀行の総裁が起こしたという点において、大きな問題があります。
また小泉構造改革のもとで、規制改革・民間開放推進会議の議長を長年つとめ規制緩和推進のモーターとなってきた宮内義彦オリックス会長が、後ろ盾として村上ファンドを支え、今回の福井総裁の出資の件では、村上ファンドの事業実務を取り仕切ってきたことが明らかになっています。
福井総裁の道義的責任を問う世論が高まっている一方で、小泉首相を筆頭に政府、与党、財界からは「問題なし」「辞める必要なし」との声が数多く出されています。また宮内氏に対する国会参考人招致についても自民党から「必要なし」の声があがっています。どうやら、現在の日本の政治と経済をリードする権限をもつ人々の価値観は、庶民とはかけ離れたところにあるようです。
福井日銀総裁、宮内会長、そしてその後ろ盾として規制緩和を進めてきた小泉首相をはじめとする政府・与党など、今もなお彼らを支え続けている政財界のトップエリートたちは、いったいどのような社会を作り上げようとしているのでしょうか。小泉構造改革の柱になってきた規制緩和はいったい誰のためだったのでしょうか。規制緩和は、私たちに本当に豊かさをもたらしたのでしょうか。
2001年4月に誕生した小泉政権は、96年の金融ビックバンを本格的にすすめるために、「貯蓄から投資へ」というスローガンのもと、金融市場の規制緩和を進め、多くの個人投資家を市場に呼び込むための法改正を行ってきました。しかし、ライブドア、村上ファンドなど、一連の事件で明らかになったように、規制緩和された金融市場とは、権力と財力をもった一握りの人々が「濡れ手に粟」のぼろ儲けができるシステムなのです。
日銀は、1999年から段階的にゼロ金利政策を進め、2001年3月からは金融の量的緩和政策を実施しています。これによって、金融機関や企業などが保有する資金が高利の投機に流れました。また低利の日本円を借りて国内外で資産運用する投資家やヘッジファンドが急増することにもつながりました。それにより村上ファンドのように巨額の運用資金をバックに国内の企業活動に積極的に介入するファンドが本格的に登場する契機にもなったのです。
福井日銀総裁は、このように浮遊する投機マネーを日本市場に引き込む政策を行いつつ、自らも積極的に投機マネーを運用し私的利益を蓄えてきました。このような人物が果たして「通貨の番人」にふさわしいと言えるのでしょうか。
もうひとつ、私たちが見過ごしてはならないことは、福井総裁が出資した村上ファンドは、タックスヘイブン(租税回避)地区として有名なケイマン諸島に資産運用会社を設け巧妙な形で税金逃れを行ってきたということです。当然ながら、福井総裁や宮内会長がタックスヘイブンを駆使した資産運用を知らないはずがありません。むしろ、福井総裁や宮内会長も、投資ファンドに預けられるだけの豊富な資産や権力を持つ者は租税回避をすることが当然であるかのように考えているようです。だれもが村上ファンドに出資をして利益を得ることができるわけではありません。大富豪や政治的権力者など、ほんの一握りの人々しか投資することができないのです。そして庶民には「大増税」が政府から提示されているのが、小泉構造改革の5年間なのです。
私たちATTAC Japanは、福井総裁が「通貨の番人」である日銀総裁の資格を喪失したと考えます。宮内会長は政府に対する政策提言の資格がないと考えます。
そして、彼ら二人を登用し続け、高所得者、とりわけ金融資産を多く持つ人々を優遇し、所得の低い層に対して増税や福祉や公共サービスの切捨てをつうじて財政赤字の埋め合わせをさせようとしてきた政府与党を改めて強く批判するものです。
2006年7月14日
ATTAC Japan(首都圏)
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